SIGMAKOKI シグマ光機株式会社

光学素子
ガイダンス
コーティング Optical Coatings

光学実験ではコーティングが施された様々な光学素子が使用されています。
多くの場合、コーティングは研磨されたガラスの表面に蒸着されてますが、反射率、波長特性、偏光特性など光学実験に必要な光の性能の多くは、コーティングの効果によって得られています。このため、ミラーなどでは性能を十分発揮するために、コーティング側に直接光を入射させて使用しています。
コーティングは金属の蒸着コートと透明な膜(誘電体膜)の蒸着コートの2種類に大きく分けられます。
どちらも光学実験用のミラーとして使われていますが、その反射メカニズムは全く異なり、使い方や特性において色々な相違点があります。

金属膜

アルミ(Al)や金(Au)などの金属は研磨されたガラス基板にコーティングすると、反射率が高いミラーになります。
この他に、銀(Ag)やプラチナ(Pt)、クロム(Cr)などの金属もミラーとして使用されることがあります。
金属膜は非常に広い波長域で反射し、入射角度依存性も小さい特徴を持っています。
反射しなかった光は金属に吸収されるため、金属膜の厚さを少し厚くすると、光はガラス基板側に透過しなくなります。


アルミコート

アルミは紫外から赤外域で高い反射率が得られますが、すぐに酸化し易く、特に紫外域で安定した性能が得られません。また、傷が付き易く、汚れても表面を拭くことができません。
そこで、アルミに保護膜を付けて、酸化や傷から金属膜を保護したミラーが使われます。
保護膜は特定の波長域で、反射率を維持する効果がありますが、それ以外の波長域では保護膜の効果で反射率が低下する場合があります。
これと反対に、特定の波長域だけを反射率を増加させる特殊な保護膜もあります。

クロムコート

クロムやその合金(インコーネル)は部分反射膜として使用されています。
クロムは反射率がアルミや金などより反射率が低く、光の吸収が多いことから、ミラーには使用されませんが、広い波長域で反射率や吸収率の変化が小さいことから、反射型のNDフィルターやビームスプリッターとして利用されています。

金コート

可視域では黄色の波長特性(青色に吸収がある)を示しますが、赤外では非常に広い範囲で高い反射率が得られます。
金単独では、ガラスに密着せず、簡単に剥がれてしまうので、下地にクロムのコートを付けるのが一般的です。
金コートは柔らかく簡単に傷が付いてしまいます。特定の波長域で使用する場合は、保護コートつき金コートを使用しますが、赤外全域を使う場合は、保護コートを付いていないものを使うことが良くあります。
金コートは絶対に紙や布で拭かないでください。一度傷が付くと、復元させることはできません。

金属膜の反射率の比較(参考データ)

誘電体膜

誘電体材料は無色透明で、金属のような大きな反射や吸収はありません。
しかし、材質や膜厚を適切に選択すると、ガラス基板や膜や空気との境界面で光の干渉作用が生じ、特殊な透過率・反射率波長特性を作ることができます。

単層反射防止膜

ガラス基板に光を入射させると、4%程度の反射が発生し透過率の損失になります。しかし、ガラス基板にガラスより屈折率の低い誘電体の膜をつけることで、ガラス基板の反射率を変えることができます。誘電体膜の厚さを調整して光路長(屈折率n×膜厚d)がλ/4にした場合、ガラス基板と誘電体膜、誘電体膜と空気の境界面の反射が打ち消し合って反射率を最小にすることができます。ただし、屈折率が膜材料によって制限されるため、反射率を完全に0にすることはできません。また、ガラス基板の屈折率に依存するため、どんなガラス基板でも反射防止効果が得られるわけではありません。

単層反射防止膜(SLAR)の反射率波長特性


多層反射防止膜

単層膜では膜材料の選択範囲が少ないため、ガラス基板の反射がいくらか残ってしまいます。そこで、膜を何層か重ねることで、少ない膜材料でも、最適な反射防止効果を得ることができます。
また、膜の構成によって特定の波長の反射率が抑えられる狭帯域反射防止コート(NMAR)や、広い波長帯域で反射率を抑える広帯域反射防止コート(MLAR)を作ることができます。

狭帯域反射防止膜(NMAR)の反射率波長特性

広帯域反射防止膜(BMAR)の反射率波長特性


多層反射膜

ガラス基板に屈折率の高い誘電体膜と屈折率の低い誘電体膜を交互に積み重ねると、非常に反射率が高い反射膜を得ることができます。
高屈折率と低屈折率の境界では僅かな反射が生じます。
全ての層で誘電体膜の厚さがλ/4の光路長(屈折率n×膜厚d)に調整されているため、各層で反射した光は位相がそろって強め合います。反対に、多重反射して透過方向に進む光は打ち消しあって0になります。
誘電体膜の層数が十分にあれば、入射光は減衰し、ほとんど透過しなくなります。
減衰した光は全て反射光に移ります。誘電体膜は吸収がないため、入射した光は損失なく、100%反射光になります。

誘電体多層膜(DML)の反射率波長特性

多層膜はその膜構造を変えることで、特殊な効果を付加させることができます。
例えば、波長帯域を広げることや、逆に非常に透過帯域を狭くすること、別な波長域を透過させないようにしたり、反射率を任意の値にしたり、色々な要求に合わせて膜を設計することが可能です。


特殊な膜

誘電体多層膜は色々な波長特性を得ることができ、様々な光学機器に使用されています。
一方、最先端の研究では、より高い性能が要求され、誘電体多層膜は100層を超えるような非常に特殊な膜構成になる場合もあります。

超広帯域ミラー

可視域であれば数十層程度の誘電体多層膜で反射させることが可能ですが、波長域が紫外から赤外域まで含まれる場合は、紫外域、可視域、赤外域の3つ以上の多層膜を組合わせる必要があります。
このため膜層数が極端に多くなり、その製作には非常に高い技術が必要になります。

ハイパワーレーザ用膜

高エネルギーのパルスレーザを誘電体多層膜に入射させると、膜の境界面で極端にエネルギーが大きくなり、膜がレーザのエネルギーで破壊されてしまいます。
そこで膜構造や膜材料を見直し、レーザダメージが起き難いような特殊な多層膜が開発されています。

フェムト秒レーザ用低分散膜

フェムト秒レーザを広帯域の誘電体多層膜に入射させると、波長によって膜中を透過する経路が異なり波長分散を生じさせます。
フェムト秒レーザ用低分散膜は、波長によって膜中の経路長が変わらないように膜設計され、波長分散は極めて小さく抑えられています。しかも、高エネルギーにも耐えられる膜構造になっています。

ハイブリッド膜

誘電体多層膜の中に金属膜を入れることで、今まで作れなかった特性の光学素子を作ることができます。誘電体多層膜と金属膜が混合していることから、ハイブリッド膜と呼ばれています。
実際に広帯域無偏光ビームスプリッターやバンドパスフィルターなどで使用されています。残念ながら、金属による吸収があるので、少しだけ光量の損失が発生してしまいます。

多層膜の特性

多層膜は任意の反射率・透過率波長特性を実現できるが、一方で、色々な制約が出てきます。

入射角度依存性

多層膜に、光が入射する角度を変化させた場合、透過率・反射率の波長特性が変化します。
多層膜の各層の厚さに対し斜めから光が入射したとき、光が膜の中を通る光路長が長くなります。このため、入射角度が0度(垂直)のときは、透過率・反射率波長特性が一番長波長側にあり、入射角度が大きくなると、短波長側にスライドしていきます。
この現象を、多層膜のブルーシフトと呼びます。


温度依存性

誘電体の膜の厚さや膜材料の屈折率は温度によって変化し、これに伴って多層膜の透過率・反射率波長特性が変化します。この温度依存性はコーティングの製造方法や膜の材料によって違ってくるため、膜設計の段階で考慮しておく必要があります。使用する環境や温度変動範囲は事前にお知らせください。

耐候性

誘電体多層膜コートは使用環境によって、経時変化を起こすことがあります。
製造方法や膜構成によって違いがありますが、高温高湿の環境下に長時間さらされると、膜が膨潤して、波長特性が少し変化することがあります。
ダイクロイックミラーやバンドパスフィルターのような、波長に対する透過率・反射率の変化が激しい波長特性の製品では特に注意が必要になります。
光学素子が使用される実験室や装置の中は、常温で湿度が低い状態を維持し、使用していないときは、ドライキャピ®などの乾燥させた収納庫で保管してください。

偏光特性

光学素子は入射角が0度(垂直入射)以外で使用する場合、偏光特性が生じます。
偏光特性はP偏光とS偏光で透過率・反射率が変わる特性と、P偏光とS偏光で位相差が変わる特性の2つがあります。
位相差特性は、制御が難しく、このカタログのコーティング製品では保証していません。例えば、45度方位の直線偏光をコーティング製品に入射させた場合、出射光する偏光状態は45度の直線偏光にはならず、楕円偏光になります。しかし、出射光の光量はP偏光成分とS偏光成分の平均値になり、P偏光とS偏光を分けて考えれば、透過率・反射率の特性に支障が出ることはありません。

ノーコートのガラス基板に入射角45度で光を入れたとき、P偏光とS偏光の反射率は異なります。
コーティングされた各膜の境界面でも同様に、P偏光とS偏光の反射率が変わり、多層膜では、P偏光とS偏光で透過率や反射率が大きく変化するとともに、波長特性にも影響が出てきます。
このため、カタログの透過率・反射率波長特性にはP偏光とS偏光のグラフが描かれています。
P偏光、S偏光のグラフが表記されていないコーティング光学素子でも偏光特性は存在し、P偏光とS偏光の平均したグラフが記載されています。
レーザ以外の大部分の光源は非偏光なので、P偏光とS偏光の平均値グラフを使用すれば良いですが、レーザを使用する場合は直線偏光なので偏光方位によってP偏光の値を取るかS偏光の値を取るか、またはその間の値を取るかが変わってきます。
特に、ダイクロイックミラーのような透過域と反射域が狭い波長域で入替わる特性のコーティング素子の場合、S偏光とP偏光のどちらを取るかで、透過、反射が入替わる波長が異なっています。


誘電体多層膜ミラーの反射率波長特性

ダイクロイックミラーの反射率波長特性

レーザ耐力

パルスレーザの共振器やレーザ加工装置に使用される光学素子は、非常に高い光エネルギーが入射しても、素子が破損することなく特性を維持することが要求されます。このような耐性を数値化したものをレーザ耐力と呼び、高エネルギーのレーザ装置用の光学素子の選定や光学系の設計などで使用されています。
レーザ耐力の評価方法は国際的基準であるISO21254に規定されているS-on-1テストを使用しています。

S-on-1テスト

エネルギーを可変できるパルスレーザを用い、被検体に適切なエネルギー密度で照射させる装置を使用する。
被検体は照射位置が変えられるようにXY軸ステージの上に乗せ、照射が終わるたびに位置を移動させる。レーザを繰り返し発振させ、同じ場所でS回のレーザパルスを照射する。
次に位置を変えて同じエネルギーでS回照射する。これを繰り返し同じエネルギーで被検体の10箇所に照射する。
次にレーザのエネルギーを変え、同様に10箇所でS回照射を行う。レーザエネルギーが可変できる範囲でこの作業を繰り返す。
テストされた被検体は、150倍の顕微鏡で膜の損傷の有無を検査する。
エネルギー密度に対し損傷の出現率をグラフにプロットし、出現率曲線から出現限界(出現率が0%と0%以上になる境界線)のエネルギー密度を求める。この値をレーザ耐力とする。
※シグマ光機では1回の照射のパルス数Sを200回と定め、200 on 1テストとして評価しています。


レーザ耐力に関する注意点

レーザ耐力は使用するレーザの波長やパルス幅、繰り返し周波数によって変わります。使用されるレーザとテスト条件が一致しているかご確認ください。

パルスレーザにはシングルモード(TEM00)レーザとマルチモードレーザがあります。レーザ耐力はTEM00レーザを使ってテストされています。マルチモードレーザでは、レーザのモードパターンによって、局所的に高エネルギー密度の場所ができることがあります(スパイク)。スパイクが発生しているマルチモードレーザでは、レーザ耐力以下のレーザを入射させても光学素子が損傷する場合があります。
もし、マルチモードレーザーを使っていて頻繁に光学素子が損傷する場合は、マルチモードレーザー共振器の光学調整に問題が発生している可能性があります。このような場合は、モードパターンを確認するか、レーザメーカーにご相談ください。

光学素子の表面がホコリや油脂で汚れている場合、低いエネルギー密度でも光学素子が損傷する場合があります。高エネルギーのレーザを使用する場合は、必ず、光学素子をクリーニングして、汚れがない状態でご使用ください。

レーザ耐力の値は同一のテスト条件で評価しないと、正しい比較にはなりません。各メーカごとにテストの条件は異なっているので、カタログのレーザ耐力の値だけでは光学素子の優劣を決めることはできません。
シグマ光機ではお客様に安全な範囲でご使用いただけるように、厳格なテスト条件を採用しています。レーザ耐力以下でご使用いただければ、一般的な利用方法で使用した光学素子の消耗や寿命と大きく差が生じることがありません。


特注コーティング

カタログに掲載されている製品以外でも、ご要望に合わせてコーティング素子の設計・製作を承ります。研究開発や試作に使用する1個から量産機器に使用する大量ロットまで、どのレベルのご依頼にもご対応いたします。
また、規格品のガラス基板を使ったコートや、特注製作した基板にコートするもの、ご支給材にコートする場合など、どのような形の進め方でも対応できますので、お気軽に営業までご相談ください。
カタログのお問合せシートを使って、必要事項をご記入していただければ、コート仕様の確認作業を円滑に進めることができます。
特注コートは仕様内容によって、製作期間を多少頂く場合があります。詳しい納期は営業までお問合せください。

特注コーティングの例 T:透過率 R:反射率