SIGMAKOKI シグマ光機株式会社


コミュニティ
光学実験の掟
掟その3|迷光

この図は、ある光学実験装置の検出器に入射する光を写した画像です。
測定に使用するのは『信号光』だけですが、『信号光』以外のいくつもの光が映っています。
これらを測定に迷惑な光と言うことで、『迷光』と呼ばれます。*1)
明るいものや暗いもの、広がったものや集光しているもの、はっきりとした形状のものや、不定形なもの、信号光と重なっているものや、ホルダーを触ると光の位置が動くものなど、迷光の1つひとつは個性的です。
これらの迷光が信号光と一緒に検出器に入ると、値が変わったり、安定しなかったり、撮像系の場合は、関係ない干渉縞が発生したり、像が二重に重なったり、いろいろな問題を発生させることがあります。
*1)著者の勝手な思い込み。一般的には『さ迷う光』と言う意味。

これらの迷光が発生する理由は、光学系の調整が悪いわけではなく、光路図通りに素子を配置すると必然的に発生します。
例えば、グラントムソンプリズムの表面反射による迷光を見てみると、グラントムソンプリズム表面で反射した光が、スペイシャルフィルタに戻り、金属面のピンホールに集光します。ピンホールで反射した光がコリメートレンズ、グラントムソンプリズム、集光レンズを通り、ディテクターに集光します。


グラントムソンプリズムを光軸に垂直に配置すると、この迷光は必ず現れます。
光路図に従って正確に光学系を配置したのにも関わらず、複数の迷光が発生し、実験の精度が落ちてしまう。理不尽な話です。

残念ながら迷光に効く万能な特効薬のようなものはありません。経験と執念で1つひとつの迷光を取り除く地道な作業が行われます。実際の研究では、光学系を組立てるよりも迷光を除去することに多くの時間が割かれています。

折角なので、迷光除去の基本的な考え方をご紹介します。(この考え方が全ての迷光に当てはまる訳ではありません。)

1)検出器の前などに虹彩絞りを配置し、迷光をカットして信号光だけを通す。
2)光学素子の不要な反射面に反射防止(AR)コートを施す。
3)迷光の原因になる光学素子を少しだけ傾け、迷光を検出器の外側に移動させる。

1)の虹彩絞り(またはピンホール)は光学実験の必須アイテムです。その場しのぎであれば、名刺に穴を開けたものをテープで貼ったり、ポストイットなども活用できます。
虹彩絞りを小さく絞り過ぎると迷光を取り除くことはできますが、実験で生じる信号光の動きや光学系の振動によって、穴を通る光の量が変化してしまい測定の誤差になることがあります。そこで、一度レンズで信号光を集光させ、集光したところに絞りを置けば、効果的に迷光を取り除くことができます。(ただし、信号光と平行な迷光は分離できない。)

2)はARコート付きの光学素子を選定することで迷光は少なくなりますが、ARコートのタイプや光源の波長によっては、ARコートの効果が十分に機能せず、薄暗い光として迷光が残る場合があります。
また、偏光実験のような微弱な光量を検出する場合は、反射防止が効いていたとしても僅かな反射光(0.5%以下)が問題を起こす可能性があります。

3)は光学素子が光軸に垂直に配置されていることが起因で迷光が発生しているグラントムソンプリズムのようなケース(上図)で、光学素子を傾けて設置します。傾斜させると性能が変わってしまう光学素子(波長板やバンドパスフィルター)は傾斜角度を注意しなければなりません。

迷光は明るい環境では見えない場合が多いので、迷光を除去するための光学調整は真っ暗な部屋で行わなければなりません。また、迷光には実験装置から外にはみ出し、周囲の人に害を与えるものあり、安全面からも実験スペースを完全に遮蔽する必要があります。さらに、光の実験では蛍光灯や野外の光の影響を除去する必要があるので、暗室が必要になります。

光学屋さんになるためには、暗室の中で『迷光』と戦い続けなければなりません。これが最後の『掟』です。